目のまど

手話で聴く心の支援「目のまど」店主。手話通訳士。臨床心理士。聞こえない・聞こえにくい人と手話にまつわるいろんなことをしています。

「見えルール」(1)

ボードゲームは、見てわかりやすい、見て美しい、見て楽しいものが多く、本来、聞こえない人たちとの相性は良いものだと思っていますが、すべてのゲームでストレスなく遊べるわけではありません。少しルール変更をしたり、便利な道具を使ったりすると楽しめるものが多いです。

そういう、聞こえない人たちが「見てわかる」ルールを〔見えルール〕と名付けて、開発・紹介していきたいと思います。

各ゲームに〔見えルール〕がありますが、今日は、多くのゲームに共通する〔見えルール〕をご紹介します。


(1)「せーの!」

ボードゲームには、「せーの!」で一斉にカードを出したり、ゲームが始まったりすることがよくありますが、聞こえない子どもたちにとって、「せーの!」は聞こえにくい言葉です。

自分が見ている方向の人が言えば気がつきますが、違う方向の人が言っていれば見逃してしまいます。子どもたちは、「気がついたら始まっていた」「いつのまにか置いていかれていた」という経験を日常的にしていて、なんとかみんなについていくために、「いつ始まるか、いつ始まるか」と、絶えず緊張して、周りに目を配って待っていなければなりません。

子どもたちが、そんなに張り詰めないでリラックスしてゲームに臨むために、便利な合図があります。

指と声で「3・2・1」と言うのです。


私の周りの聞こえない人たちは、写真を撮る時に「ハイ、チーズ!」の代わりに「3・2・1・カシャッ」とします。ゲームでも同じように、「3・2・1・スタート!」とすれば、子どもたちはタイミングを予測でき、安心してゲームをスタートさせることができます。


(2)早く言った者勝ち

ワードバスケット、ワードスナイパー、ドブルなど、「早く言った者勝ち」方式のゲームはたくさんありますが、これも、聞こえない人にとっては苦手な方法です。何か声がした気がしても、誰が言ったのかわからないし、聞き取れないことも多いし、自分の考えに集中していると、なおさら周りの音が聞こえにくくなります。

それに対する工夫はいくつかあります。


①指さし

答えを「言う」代わりに、指でさして伝えます。この方法だと、オリジナルルールとほぼ同じスピード感でゲームが進みます。〔ドブル〕で使っています。


②コマを置いて発言権確定

答えがわかったら自分のコマを置きます。最初にコマを置いた人に発言権があります。それから答えを言います。この方法だと、オリジナルルールよりもゆったりとゲームが進んでいきます。〔ワードスナイパー〕〔ワードバスケット〕で使っています。


③手番制にする

早い者勝ちではなく、順番にプレイする手番制のゲームは、いつ自分がプレイすれば良いかわかりやすく、自分の番以外では少し気を緩めても良いし、リラックスして楽しめます。手番制に変更できそうなゲームは、変更してみるのも良い工夫だと思います。


今回は、ボードゲームをしていると頻繁に出てくる「せーの!」と「早く言った者勝ち」を取り上げました。これからも〔見えルール〕随時追加していきます。

聞こえない人と聞こえる人が同じ卓を囲んでボードゲームを楽しむ光景が、いつか当たり前になることを願って。